2025年10月20日から23日まで、中国共産党中央第20期第4回全体会議(四中全会)が開催され、「国民経済と社会発展の第十五個五年計画(十五五)に関する建議」を審議・採択しました。
この計画は、2030年までの中期的発展ビジョンを見据えた「新質生産力」の創出と「高品質発展」の推進を目的とするものであり、中国式現代化の次の段階を方向づける国家戦略と位置づけられています。
■ 全体目標
四中全会公報では、「高品質発展の実現」「科学技術の自立性向上」「社会文明水準の向上」「美しい中国の建設」「国家安全保障能力の現代化」など7つの基本目標が明示されました。
これらを具体化する形で、党中央は以下の12の重点政策分野を提示しています。
■ 「十五五」計画の12大重点政策
① 産業体系の現代化
目標: 実体経済を強化し、先進製造業を中核とする産業体系を構築。
施策:
・伝統産業の高度化と新興産業(AI、バイオ、新エネ車、宇宙技術など)の育成
・サービス産業の高付加価値化
・「製造強国」「品質強国」の加速とインフラの現代化
➡ 「新質生産力(New Quality Productive Forces)」を支える経済の根幹形成を狙う。
② ハイレベルの科学技術の自立自強
目標: イノベーション主導型発展による生産力の再構築。
施策:
・イノベーションの促進とコア技術の突破
・教育・科技・人材の一体化政策
・「数字中国(Digital China)」の推進
➡ 外部依存の低減と、AI・量子・半導体などの自主技術体系の構築が重点推進事項。
③ 国内市場の強化
目標: 内需主導の新発展構造を形成。
施策:
・消費と投資の拡大による循環環境の構築
・全国統一大市場のボトルネックの解消
・供給と需要の相互促進
➡ 「双循環(内需と外需の循環)」のうち、内循環を中心とした戦略。
④ 社会主義市場経済体制の高度化
目標: 市場と政府の機能を最適化し、高品質発展の制度基盤を整備。
施策:
・マクロ経済ガバナンス体制の強化
・要素市場(資本・労働・土地・データ)の市場化配置
・経営主体活性化のための制度改革
➡ 「中国式社会主義市場経済」の完成形を目指し、制度面での開放と効率化を両立。
⑤ 対外開放の高度化
目標: 協力と共創による新たな国際関係の構築。
施策:
・制度型開放(ルール・基準・管理の国際調和)を拡大
・多国間貿易体制の維持と再構築
・貿易・投資の双方向発展、「一帯一路」の高品質化
➡ グローバル競争環境の中で、中国式開放の新モデルを形成。
⑥ 農業と農村の現代化
目標: 「農業強国」の地位を確立し、農村の全面振興を実現。
施策:
・食料安全と農業生産力の強化
・居住環境・インフラ整備による「宜居農村」の建設
・農民支援政策と貧困脱却成果の定着
➡ 都市と農村の格差の是正と、地方経済の安定化を促進。
⑦ 地域経済配置の最適化
目標: 地域間の均衡発展と生産力配置の最適化。
施策:
・都市群・経済圏ごとの機能分化と連携強化
・西部・中部の成長中心地区の育成
・海洋経済の開発と保護
➡ 「一極集中」から「多極連携」型発展へと転換。
⑧ 文化創造力の強化
目標: 社会主義文化の繁栄と文化強国の建設。
施策:
・社会主義核心価値観の普及
・文化産業・文化事業の発展の促進
・中国文明の国際発信力の向上
➡ 経済発展と並ぶ「文化的自信」の戦略的推進。
⑨ 民生保障と共同富裕
目標: 共同富裕を推進し、人民生活の質を総合的に向上。
施策:
・雇用の安定と公正な所得分配
・教育・医療・年金・住宅・福祉の整備
・「健康中国」「公共サービス均等化」政策の推進
➡ 成長成果を国民全体で共有する公平的な発展を強調。
⑩ 経済・社会のグリーン転換
目標: 「美しい中国」を建設。
施策:
・カーボンピーク・カーボンニュートラルの実現加速
・「減碳・減汚・増緑・成長」の一体推進
・エコシステム最適化とグリーンライフスタイル普及
➡ 成長と環境保護の両立による「生態文明」の深化。
⑪ 国家安全の現代化
目標: 「平安中国」を構築し、発展と安全を統合。
施策:
・国家安全体系と法制度の整備
・公共安全・社会ガバナンスの強化
・リスク管理・危機対応体制の構築
➡ 経済発展と安全保障を一体で設計する「トータル国家安全観」を具体化。
⑫ 国防・軍隊の現代化
目標: 建軍100年(2027年)に目標達成。
施策:
・「強軍思想」に基づく軍制改革
・機械化・情報化・智能化の一体推進
・政治・法治・人材による強軍の推進
➡ 科学技術力と軍事力を統合し、総合的な国家軍事力を強化。
■ 政策全体の意義と展望
「十五五」(2026~2030年)計画は、単なる政府目標ではなく、「質・安全・公正・文化・環境」を柱とする新時代の国家構想です。従来の「高速成長」から「高品質成長」への転換を制度面で確立しながら、 「自主技術」「内需主導」「グリーン化」「共同富裕」など を軸に、社会全体の持続的発展を図っているものです。
また、国際情勢の不確実性を踏まえ、開放と安全を両立させる「内外双戦略」を打ち出している点が特徴的です。すなわち、「内(国内市場と技術自立)」で安定を確保しつつ、「外(国際協力とルール形成)」で影響力を拡大するという構図となります。
中国政府が打ち出した目標は非常に広範かつ野心的ですが、今後は 「どう落とし込むか」「地方・現場でどう実現するか」 が焦点となるでしょう。
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