
2025年10月13日、午前3時18分頃、四川省成都市で小米の電気自動車(BEV)「SU7」が前方車両に追突した後、中央分離帯に衝突・炎上の事故が発生しました。運転者の男性(31歳)は現場で死亡が確認され、警察は酒気帯び運転の可能性があると発表しています。
事故直後、複数の通行者が救出を試みましたが、車両のドアが開かず救助が難航したと報じられています。目撃者の証言によれば、外観上ドアの大きな変形は見られなかったものの、ドアノブが反応せず、ガラスを割るなどの試みも火勢の拡大で断念せざるを得なかったという状況でした。消防が到着した際には、車両はすでに激しく燃焼・損傷していました。

小米車炎上事故の影響
この事故を受けて、中国国内では小米車の安全設計に対して懸念の声が上がっています。SU7は隠蔽式ドアノブや電子ロック機構を採用しており、電源喪失時や衝突後の緊急開放機能の有効性が議論の的となり、SNS上では「デザイン重視が安全性を犠牲にしたのでは」との批判の声が多く炎上しています。また、香港株式市場に上場している小米社の株価は、13日一時 8%、終値は 5.7%の大幅な下落となりました。
小米は今年3月にも、安徽省でSU7が爆発炎上し、3人の大学生が死亡した事故を経験しているほか、9月には運転支援ソフトの不具合修正を目的としたOTA(無線アップデート)を実施していました。短期間で複数の事故・リコールが続く中、同社の技術信頼性や安全基準への適合性が改めて問われています。小米各地の販社が主催しているライブ配信には「安全性」に関するコメントが多く寄せられている状況で、取りやめざるを得ない販社も少なくありません。
中国自動車関連標準の最新動向
近年NEV市場が拡大する中国では、中国系メーカーはデザイン性やインテリア質の高さを競う一方で、安全設計・耐火性・救援対応などが不足しているとの課題が浮上しています。今回の事故は、単なる一メーカーの問題にとどまらず、EV業界全体に「EVの安全基準」を問い直す契機となりそうです。
EV用駆動バッテリーの安全基準、車両ドアノブの技術国家標準を強化する動きがすでにあり、自動車メーカーはこれらの基準に対応しなければなりません。
項目 | 内容・改正点 | 発効/適用時期・備考 |
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EV用駆動バッテリー安全要求 (GB 38031-2025) | 2025年改定版では、火災・爆発を防止するための試験強化、熱暴走の内部発火試験の導入、発火・爆発しないことの要求、乗員避難時間の要件などが強化。 | 新車には 2026年7月1日 から適用。既存車両には猶予期間が設けられる見込み。 |
車両ドアノブの技術要求 (GB採番中) | デザイン性優先で採用されてきた 「完全格納式ドアノブ」 に対し、新しい国家標準案では安全性観点から制限を設け、機械式冗長開閉機構を必須とする。 | 新車には 2027年7月以後適用の見込み。 |
日本メーカーへの示唆
日本メーカーは中国市場で競争力を維持するためにも、現地消費者の「スマートな外観・高級インテリア」へのニーズを理解しつつ、安全性・品質保証・耐久信頼性での差別ポイントをより前面に訴求すべきだと考えます。
また、電子ドアノブや運転支援など、新技術を採用する際には「停電・衝突時のバックアップ設計」「救援対応」のような「最悪条件設計」の強化が求められ、安全重視の日系メーカーは再び中国消費者に注目される可能性が高いかと思います。
今回の事故は、中国EV市場の「高速成長の陰」に潜む課題を浮き彫りにした。消費者は「車の安全性」への意識が高まっているきっかけになるでしょう。日本メーカーが中国市場で再び存在感を示すには、中国の国家標準をクリアし、「安全+信頼+スマート」を一体で提案できる製品設計が不可欠だと考えます。
Biz-Partは、中国消費者の嗜好変化や市場構造の転換を継続的に調査しており、こうしたデータに基づく「現地適合型商品戦略」「中国国家標準対策」の策定支援を行っています。中国の様々な産業動向についてもっと知りたい場合、下記問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。