2026年1月19日、中国国家統計局の発表により、2025年の中国の出生者数が792万人であったことが明らかになりました。これは1949年の建国以来、最低の数字であり、初めて800万人を下回る歴史的な事態です。2024年末よりも339万人少なく、2025年末の総人口が14億489万人でした。本稿では、この「800万人の壁」突破が意味するものを多角的に分析します。
1. 過去10年間の出生者数推移:激変するトレンド
過去10年間のデータ(2016年〜2025年)を振り返ると、中国の人口動態がいかに劇的に変化したかが分かります。

- 2016年: 約1,786万人(「二人っ子政策」全面解禁により一時的に増加)
- 2019年: 約1,465万人(減少傾向が顕著に)
- 2022年: 約956万人(1,000万人を割り込み、人口減少社会へ突入)
- 2024年: 約954万人(辰年効果や政策支援で一時的な踏みとどまり)
- 2025年: 792万人(前年比約17%の大幅減)
傾向から言えること: 2016年のピークからわずか9年で出生者数が半分以下に激減しました。2024年に見られた一時的な回復(辰年効果)は限定的であり、長期的・構造的な減少トレンドは、もはや一時的な政策や縁起による後押しでは覆せない段階に入ったことを示しています。
2. 出生者数低下の原因分析:複合的な「産まない」理由
なぜ、世界一の人口を誇った中国でここまで急速に子供が減っているのでしょうか。
- 出産適齢期女性の減少: 過去の一人っ子政策の影響で、親になる世代(20代〜30代)の絶対数が減り続けています。
- 経済的負担の増大: 都市部の不動産価格の高騰に加え、「教育費」という多額の投資が家計を圧迫しています。
- 若者のマインド変化: 高い失業率や将来への不透明感から、結婚や出産を「贅沢品」と捉える若者が増えています。
- 未婚化・晩婚化: 2024年の婚姻件数は過去最低水準を記録しました。中国では婚外子が極めて少ないため、婚姻数の低下は直ちに出生数に直結します。
- 十二支の影響(巳年): 2025年は「巳年(ヘビ年)」であり、縁起が良いとされる前年の「辰年」の反動、および「ヘビ年は出産に不向き」という一部の伝統的迷信が心理的なブレーキになった可能性もあります。
3. 出生者数の今後:下げ止まりの兆しは見えず
今後の予測として、出生者数はさらに減少、あるいは700万人台で低迷を続ける可能性が高いと考えられます。
- 予測: 2026年以降、政府は「不妊治療の保険適用」や「現金給付の拡大」など、より踏み込んだ政策を講じると予想されますが、若者の価値観が「個人の自由と生活の質」にシフトしているため、出生率をV字回復させることは極めて困難です。
- 長期的な視点: 労働人口の減少が本格化し、2030年代には深刻な人手不足と社会保障制度の維持が国政の最大課題となります。
4. ネガティブな影響が予想される産業
出生者数の激減は、子供をターゲットとした市場を直撃します。
- ベビー用品・粉ミルク: すでに淘汰が始まっていますが、市場規模の縮小によりブランドの集約化と過酷な価格競争が進みます。
- 教育・学習塾・幼稚園: 子供の奪い合いが激化し、閉鎖する幼稚園や小学校が相次いでいます。
- 産婦人科・小児科: 出産件数の減少により、公立病院を含めた医療体制の再編を余儀なくされます。
- 中長期的には不動産: 将来的な世帯形成数の減少により、住宅需要のさらなる低下が予測されます。
5. ビジネスチャンスがあると考えられる産業
一方で、この人口動態の変化を商機とする分野もあります。
- 高齢者ビジネス: 総人口の15%超えの65歳以上の高齢者は急増しており、介護、医療機器、シニア向けレジャーは巨大市場に成長します。
- 自動化・ロボティクス: 労働力不足を補うため、工場だけでなくサービス業や家庭内でも「人型ロボット」の導入が加速します。
- 独身経済(ソロ・エコノミー): 未婚化・少子化は、可処分所得を自分のために使う「独身経済」のさらなる拡大を意味します。単身者向けの小型家電、中食、一人旅、趣味への高額投資、さらには「心の隙間」を埋めるペット産業や推し活ビジネスが、かつてない活況を呈すると予想されます。
- ペット産業: 「子供の代わり」としてペットを飼う若者・高齢者が増え、ペットフードや医療市場が急成長しています。
最後に、日本企業へのメッセージ
中国の「800万人の壁」突破は、単なるニュースではなく、「ビジネスモデルの賞味期限」を告げるアラームでもあります。これまでの「人口ボーナス」に頼ったビジネスから、自動化、高齢化対応、そして「質」を重視する新常態(ニューノーマル)への戦略転換が急務となっています。
弊社は、中国消費者の嗜好変化や市場構造の転換を継続的に調査しており、こうしたデータに基づく「現地適合型商品戦略」「中国国家標準対策」の策定支援を行っています。中国の様々な産業動向についてもっと知りたい場合、下記問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。